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食育活動について現役医師が解説!

投稿日:2021年11月4日 更新日:

食育基本法には、「食は命の源であり、食育は生きる上での基本である」と明記され、「食に関する知識と食を選択する知識を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てる」ことが食育であるとされています。

この食育基本法に沿って第4次食育推進基本計画が定められました。その概要の中で記されている現在のわが国での食をめぐる課題としては、生活習慣病の予防、高齢化・健康寿命の延伸、成人男性の肥満・若い女性のやせ・高齢者の低栄養、世帯構造や暮らしの変化、農林漁業者や農山漁村人口の高齢化・減少、低い総合食料自給率、食品ロス、地域の伝統的な食文化が失われていくことへの危惧などが記されています。

そのような背景からも食育をテーマにした活動では、それらの課題を解決するような形で様々なフィールドで食育活動が行われていくことが期待されます。

家庭における食育活動ではどのような活動が期待されるでしょうか。家庭では食育にかける時間がなかなかとれないことが想定されますが、その中でも子供が社会に出る前の乳幼児期からの健康的な生活習慣をみにつけることが食育の一つと考えられます。

例えば「早寝早起き朝ごはん」は食育ではよく言われるテーマですが、基本的な生活習慣の確立を指した言葉です。純粋に朝食を食べる生活習慣は日中の活動にも好影響を及ぼすため望ましいと考えられています。ただ、その朝食を食べるという目的以外にも、朝食の大切さを教える時間が食育となり、健康的な生活習慣を確立するためにどのような取り組みをすればいいのか考え、実際にそれを行動に移し早寝早起きするということが食育になります。

家庭より少しフィードを広げ、学校や保育所などではどのような食育活動があるか例を挙げていきます。学校では栄養教諭や管理栄養士を中心として、体系的な食育をすることが求められます。その中で学校給食を題材に用いることは、子供たちも食育とし認知しやすく幅広く実施されています。

関係各所の連携で地場産の食材を給食に積極的に使えば、どのような食材が用いられているのか、どのようなメニューがあるのかを考察することで地元の名産品・食文化を学ぶ機会にもなります。料理ではなく食材に興味をもてば、栄養素やその先にいる生産者にも興味を持てるかもしれません。

もちろん学校給食に地場産食材を使用することは地元農家の収益増加につながることも期待され、農林漁業者の雇用確保なども見据えた大切な食育活動になります。また学校などでは食事の場がコミュニケーションをとりながら楽しむ場になり、それも食育になります。食事はただ単に食べる行為を指すわけでなくコミュニケーションの場にもなり得ることを理解し、食事を通して社会性を学ぶことも大切な食育になります。

さらに大きなフィールドである地域で行う食育では、対象もさらに大きな集団となります。地域の人々の健康寿命延伸につながる活動であったり、地域の貧困世帯への援助などが挙げられます。糖尿病を例とすると、糖尿病に関する知識の啓発や、糖尿病患者にとって理想的な食事メニューの広報、糖尿病予防にどのようなことを気を付けるべきかなどを周知するのも地域で行う食育活動です。生活習慣病予防は個人の学びや個人の努力で行うことは難しく、食育活動として地域全体で啓発活動を行うことはとても有用だと考えます。

貧困世帯への援助としの食育活動には子供食堂などの取り組みがあります。すべての子供が年齢相応の満足な栄養を摂取できることは、健康的な発育のみならず成人になってからの健康的な生活にも関与しますし、それを可能にするのも食育の大切な活動です。ただ子供食堂として料理・食材を提供するなどの貧困のみをターゲットにするボランティア活動だけに終わらせるのではなく、子供たちも積極的に食堂運営に関与する仕組みを整えることができればさらに面白い食育の場になるでしょう。

準備、仕込み、調理、後片付けなど様々な食に関する体験を可能とし、それを通じて社会性や協調性などの学ぶことができ、理想的な食育の場になります。

上述したような家庭や地域の食育は消費者をターゲットにしたものを例にあげましたが、生産者をターゲットにした食育の活動も大切なものです。農林漁業関係者の高齢化などが危惧されるなか、それらの仕事も魅力発信・活性化なども食育の一つです。

農林漁業がどのような仕事であるかを知り理解できるようになると、食材の奥にある生産者の努力や苦労が感じられるようになります。食材が自然の恵みであること、その自然を守ることの重要性を感じることができればさらに広い興味が湧くことと思います。

消費者と生産者が直接交流を持てるような体験事業を計画するなどで、地域の中で両者の結びつきを深めることも有用です。地産地消の推進は地元の生産物へ関心が湧くだけでなく、顔の見える関係性があると食への安心感が増します。また、食材の際に生産者の顔がみえるようになれば、食品ロスの減少などにつながることも考えられます。

そのように食育は家庭、学校・保育所、地域など、どのフィールドにおいても行うことができるもので、かつ各々のフィールドで求められるものが異なります。

食育活動として行われるものはそれだけではありません。日本の伝統的な食文化である和食の保護や継承も食育活動に期待されるところです。和食をユネスコ無形文化遺産への登録を行ったことは和食文化への保護継承にとっては前向きなことです。

和食の特徴として一汁三菜でバランスよい健康的な食生活があります。食育として一汁三菜の食事を推進することは一つですが、それだけでは和食文化の継承は困難です。和食文化を継承していくためには、和食を理解する必要があります。

和食の特徴には日本の四季、四季折々の旬の食材、旬の食材を用いた料理などを利用することが一つあります。さらに旬の食材を用いた季節ごとの行事食などが一つ。行事食を含めて地域の気候風土によって様々な郷土料理があるのも和食の特徴の一つです。

ただしその特徴である地域の食文化も、地域で生きていく人々がいて初めて成り立ちますし、その継承が人口減少などで失われる危険もあります。食文化の維持には地域活性化をすることが大切ですし、様々な食文化を持続可能な食文化にするという側面も食育にはあります。

学校教育がその一旦を担うこともあるでしょうし、ITデジタルを活用して郷土料理のデータベース化などをすすめていくことも一つの選択肢になります。どのようにしたら文化継承ができるかその仕組みを考え、日本の食文化が後世になっても世界に誇る食文化であり続けられるように考えることが大切です。

食育の活動に関して具体的な例もあげながらお話しさせていただきました。食育は、「食」という人々が生きていく上でとても大切なテーマに対する教育です。食育のターゲットが食事の内容だけというわけではなく、対象も子供だけではないことを認識し、成人から高齢者に至るまでのすべての人々がその内容を理解し実践していく必要があります。

現代社会の情勢や経済は日々変化しており、このコロナ渦においてさらに食文化は大きく変化しました。食事の場での会話が制限されたり少人数での食事を求められるなど、食事の場は社会性を持った場ではなくなりつつありました。つまり食育は、一度決めたものがいつまでも役立つものではなく、時代や情勢に合わせて合理的に変化していくべきものであり、その都度どのようにしたら食の持つ課題が解決できるかを考え行動する必要があります。

食を通して豊かな人間性と心身の健康をつくること、食に関する感謝と食を生み出す自然に対する敬意を持つこと、日本の誇る食文化への理解と保護伝承をしていくことなど食育ももつ大きなテーマを念頭に置きながら、食育活動を継続していきましょう。

  • この記事を書いた人

Masa

現役臨床医のMasaです。消化器外科・総合診療医として地域中核の総合病院に勤務中。 【保有資格】医師免許・外科専門医・腹部救急認定医 【経歴】 大学卒業後、外科医として臨床経験を積み、現在は消化器外科・総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療をしています。また、往診や訪問診療もしており、若年者から高齢者・老年医療まで広く対応しています。

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