セルフケア

食育アドバイザーに関して現役医師のコラム

投稿日:2021年11月11日 更新日:

食事は、全ての人が生涯にわたり幸せに生きていく上でとても大切なものです。食事は単に個人の健康だけを目的とするのではなく、子どもたちにとっては豊かな人間性をはぐくむコミュニケーションの場であり、すべての世代の人にとってより生き生きと自分らしい人生を生きる源になるべきものです。

食事があらゆる世代の人々にとって大切なものということは間違いないですが、社会情勢が変わり、食事をする場所・食事をする時間・食事の内容などが個人の裁量に大きくゆだねられた時代になっています。少子高齢化や核家族化、人口減少などの社会・世帯構造の変化が進行するにつれ、かつて健全だと思われていた一汁三菜を家族で囲むような食生活をおくることが困難になり、それに伴い古くから地域で親しまれていた伝統的な食文化も失われる危険があります。

現代の人々は食に困ることがなく、日々忙しい生活に追われるという状況のため、毎日・毎食の食事の大切さを忘れていることがあります。生活習慣病という名前が1996年頃から使われるようになったことからも分かるように、豊食に囲まれる日々の生活が栄養の偏り、不規則な食事習慣をつくり、肥満や生活習慣病を増やしているといっても過言ではありません。しかし詳細に注目してみると成人男性には肥満が多く、若年女性にはやせ型が多いなどライフステージごとや、その人毎に抱える食の悩みは異なります。

そのような状況の中で「食育」とは、人が生きる上で必須であり根幹となる食事を、本来の食事が持つ力を改めて理解し認識し、食事に対する意識を高めることをさします。食育を通して食事の持つ人を幸せにする力・人が健康に生き生きと生きる力を引きだすことができれば、日々の生活はより輝かしいものになります。

特に子供に対しての食育は非常に注目されています。生産者に触れ合うなどの行動から食への感謝の気持ちが生まれます。食材を学び、栄養などを学ぶことで食事を考えるうえで必要な栄養のバランスを学べます。孤食ではなく家族他人との食事の場を数多く経験することで社会性やコミュニケーションを学び、安全な食事への意識、日本の伝統的な食事の伝承など、食事に関することを総合的に学ぶことで、子供の生き生きとした健康に繋がります。

また食育は食べることだけに注目するものではありません。安定して健康的な生活がおくることができる食事を維持するために、持続可能な食材を安定供給する環境も必須となってきます。日本の食料自給率は38%(2017年度)程度であり、食材の多くを海外からの輸入に頼っている国です。その一方で、いわゆる食品ロスは年間600万tにもおよび、これは世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量の1.4倍に相当します。

日々の食生活が豊かな自然の恩恵を受け、生産者の努力のもと成り立っているとう事実や、食事という行為自体が様々な動物たちの命を受け継いでいるのだという事実をしっかりと認識しなければいけません。食品ロスの問題も、一人一人にしてみれば意識されることのない程度の日々の小さなことの積み重ねですが、結果としてみれば相当量のロスがでています。持続可能な食生活を安定的に確保するためには、このようなことにも目をむけなければいけません。

農林水産省が平成17年に食育基本法を制定してから食育の必要性が徐々に浸透してきています。国を挙げた推進もますます活発になっており、次世代を担う子どもたちへ家庭、地域、教育現場などさまざまな場所で食についての正しい知識を伝えていく存在が期待されています。

また平成27年に国連で採択された国際開発目標である持続可能な開発のための2030アジェンダが、今話題のSDGs(持続可能な開発目標)を掲げています。SDGsで掲げる目標には、飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進するという項目もあります。食育はこのような国際的な観点からも注目され、身近なところから実践していくべきものです。

身近なところで食育をアドバイスしてくれる存在はそれだけ貴重で、例えば正しい知識としての「食育」を勉強して取得できる資格に、食育アドバイザーがあります。食育アドバイザーは、一般財団法人 日本能力開発推進協会(JADP)が認定している民間資格で、食育に関する正しい知識と健全な食生活を実践する力を持った食のスペシャリストと言えます。同様に食生活アドバイザーという資格もあり、こちらは一般社団法人FLA(Food&Lifestyle Adviser)ネットワーク協会が主催している民間資格で、同様に食生活に関するスペシャリストを認定する資格です。

実際、食育に関するアドバイザーが活躍できる分野は増えてきています。例えば、日々の食事にレトルト品が多く食品添加物を過剰に摂取しているなどの問題は自覚がないことが多く、それだけ多くの人にとって無視できないものです。食事の知識がないために偏った栄養の食事や食品ばかりになり、子供の肥満や学力・免疫力の低下を来すなどの事例は後を絶ちません。

そのような諸問題を解決していく上で最も重要なことは、「食育」を学ぶだけでなく、いかに実践していくかということです。食育は子供のころから家庭や学校、地域など様々な場所で学び、学んだものを生涯にわたって実践していくべきものです。つまり、子供が食育を学ぶ場所、それすべての場所でアドバイザーの活躍の場所があると考えることが出来ます。

例えば、家庭に対するアドバイスとしては朝食を食べようというものです。朝食は、寝ている間に低下した体温を上昇させたりする効果があり、朝食を食べることで身体は1日の活動が始めることができます。また、毎日朝食を食べる子供は学力調査の平均正答率や体力テストの合計点が高い傾向にあるという調査結果も報告されています。朝食の有用性に関して、家庭へアドバイスすることも一つの役割です。

学校や地域に対しのアドバイスとしては食事を楽しむというものがあります。最近は、コロナウイルスの流行や、核家族化などの社会情勢の変化もあって、家族が集まって食事をする機会が減ってきているといわれています。特に一人暮らし世帯では、自分一人のために食事を準備するのがおっくうだからといって、適当に済ましてしまうことも少なくありません。

本来食事の場はコミュニケーションを楽しむ場であり、食事の場が社会勉強に直結しています。いただきますや、ごちそうさまといったあいさつや、箸の持ち方、食事のマナーまでを楽しく身に着けることが出来ます。食事のもつ側面として、栄養バランスを考えて健康にいいものを食べるというだけでなく、社会とのつながりを身に着けることも目的だと伝えることもアドバイザーが可能な社会貢献です。

地域にとってはそれ以外にも、食事食育は文化の伝承の側面もあります。郷土料理、旬の食材、季節の料理といった食の文化は、親や祖父母から子供に、地域の大人から子供へ伝えていくべきものですし、食事の時間はそれを伝える良い機会です。地域のお祭りなどの文化と食事もきってもきれない関係にあります。食事と文化の持つ関係性・側面を地域で伝えていくことがいかに重要か、アドバイザーが活躍できる場所の一つです。

食育基本法が食育を「生きるうえでの基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるべきもの」と位置付けているということが、食育の根幹です。美味しく食べる、健康に食べる、楽しく食べる、食べてつながる、食べて伝える、食べることを持続可能にするなど食育のもつ重要性は大きいですが、日々の生活に直結することであるため多くの人が理解しやすいことでもあります。食育をしっかりとアドバイスできるアドバイザーを味方につけて食育を毎日実践していける社会になれば、食事は、人々の幸せに直結するより生き生きと自分らしい人生を生きる源になるはずです。

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  • この記事を書いた人

Masa

現役臨床医のMasaです。消化器外科・総合診療医として地域中核の総合病院に勤務中。 【保有資格】医師免許・外科専門医・腹部救急認定医 【経歴】 大学卒業後、外科医として臨床経験を積み、現在は消化器外科・総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療をしています。また、往診や訪問診療もしており、若年者から高齢者・老年医療まで広く対応しています。

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