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温泉と健康に対する効果について現役医師のコラム

投稿日:2022年1月15日 更新日:

日本国民と温泉の関係は切っても切れないほど密接です。誰しも温泉が大好きで、多くの人が温泉に入るとリラックスでき疲れが取れるなと感じていると思います。今回は、その温泉の健康対する効果と、その効果がでる理由を解き明かすべく医学の観点から解説していきたいと思います。

温泉とは?

実は温泉にはしっかりとした定義があります。日本では、昭和23年に公布された温泉法により、温泉の定義が示されました。それを要約すると、地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガスで温度が25℃以上、又は指定された物質が一定量以上含まれるものと定められています。

温泉の歴史

温泉の歴史について、始まりの時期は定かではありませんが、日本書紀などに温泉の記述があることから奈良時代には広くその存在が知られていたようです。江戸自体になると温泉の中に湯治というものが広まり、病を治す力があると考えられるようになりました。西洋医学が発展した現代になると、温泉は観光地化され湯治の印象を持つ方は少ないかもしれませんが、温泉が身体の調子を整えてくれるという感覚は、脈々と続く日本文化の一つと言えるでしょう。

湯治とは

湯治とは、温泉地に1~4週間ほど滞在して、病気やケガなどの温泉療養を行うことを指します。日本では古くから温泉が療養目的としても利用され、江戸時代には本格的な湯治が始まったとされています。湯治の本質は、さまざまな成分が含まれている温泉と、温泉地を取り巻く豊かな自然のリフレッシュ効果によって、人間本来の自然治癒力を高めることにあると言われています。

歴史の中で湯治の文化が生まれた時代は、現代のような科学が発展する以前でした。つまり我々の祖先は、科学での明確な理由はなくとも、その身をもって温泉に病を治す力があることを見抜いていたと思われます。その温泉が病を治す力、温泉と健康の関係がどのようなところにあるのでしょうか。

温泉の何が健康にいいの?

ここからは温泉がどのような理由で身体に健康効果を及ぼしてくれるかを解説してきます。

温泉の健康に対する効果 温熱効果

温泉の健康に対する効果として期待されるものに、温熱効果があります。温泉はその含有物によって炭酸ナトリウム温水(重曹泉)、二酸化炭素温水(炭酸泉)などに分類されますが、それらは真水と比較して体が温まりやすく保温効果が高いことが分かっています。そして身体が温まることで得られるいい効果の一つに疼痛緩和作用があります。

人体が痛みをどのように感じているかというと、炎症などの痛みの原因が出現した場合、その場所で神経刺激物質が産生されます。これが痛みを感じる神経を刺激し脳が痛みを感じ、痛い、と自覚することとなります。しかし体が温まると、痛み神経が刺激される閾値を上昇するため、普段より痛みを感じにくくなります。また体が温まり末梢血管が開くことで血流の流れがよくなり、痛みの原因になる神経刺激物質の排泄が促されます。

これは痛みに限ったことではなく、体内の老廃物の排泄を促してくれるため疲労物質である乳酸も排出されます。温泉による温熱効果で痛み軽減だけでなく疲労回復効果も期待できます。

また、その他に身体が温まることで得られるいい効果に、免疫力が高まることが挙げられます。血液中にある免疫をつかさどる細胞のひとつにNK細胞(ナチュラルキラー細胞)があります。またこの働きが温熱効果により活性化することが知られています。NK細胞は体内で異常な細胞(がん細胞やウイルスに感染した細胞)を攻撃する機能があるため、温熱効果により風邪などに対する抵抗力が上がります。

温泉の健康に対する効果 含有成分による効果

温泉と自宅のお風呂に大きな違いの一つに、温泉は種々の物質を多く含んでいるという点があります。温泉に含まれる成分を最も多く吸収しようと思うと飲用することになりますが、入浴だけでも経皮的に吸収され効果を発揮します。

その効果は含有成分によってことなりますが、代表的なものを列挙します。

温熱効果のところにも記載しましたが、炭酸水素ナトリウムや塩化ナトリウムなどの成分などは保温効果が高いことが知られています。これにより温熱効果がより一層期待できます。

二酸化炭素が含有する炭酸泉や硫化水素は末梢血管拡張作用があります。血液の流れが改善することで、酸素や栄養が含まれた新鮮な血液が体の隅々までいきわたります。それとともに疲労の素になる老廃物や、痛みの原因になる物質のスムーズな排泄が期待でき症状緩和、冷え性などの改善、高血圧患者の降圧作用などが期待できます。

酸性泉には殺菌効果があります。酸性泉自体はそれほど数は多くないですが、その殺菌効果がにきびの症状緩和に効果的な場合や、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える効果があります。他人に感染性のある疾患の場合は入浴は避けなければなりませんが、皮膚表層の常在菌バランスが崩れておこるような皮膚炎の場合には、温泉の殺菌作用が治癒に効果的に働きます。

美肌の湯などとも呼ばれるアルカリ性泉では皮膚の新陳代謝を活性化させる効果が期待できます。皮膚は普段から古い角質や皮脂がアカとなって落ち、新しい皮膚がどんどん作られて維持されています。しかし皮膚に古い角質や皮脂がたまるとこの皮膚の新陳代謝には悪影響を及ぼします。その中で、アルカリ性泉の入浴効果で古い角質や皮脂が溶けると、普段の入浴より高い皮膚洗浄効果が期待できます。あかすりなども古い角質を落とすことで皮膚の美容効果が得られますが、アルカリ性泉でも同様で、皮膚の新陳代謝が活性化しきめ細かいきれいな肌になります。

温泉の健康に対する効果 転地効果

転地効果とは、日常生活を離れて自然豊かな環境の温泉地に出かけることで自律神経が整うことを言います。豊かな自然を五感で感じることで自律神経が整うことで、消化や内分泌といった生命にかかわる機能が整い、ホルモン分泌が調整され、日常のストレスが解消されます。一般に温泉で転地効果を得るためには日常から100キロ以上離れ、標高300〜800メートルの森林の多い高原地帯にある温泉地が最適とされています。森林浴の効果も得られるためですが、それ以外にも海辺での波の音や潮風が心地よい空間を作り出すなどでも転地効果が得られます。様々な豊かな自然環境が体の自律神経の働きを活性化させることも、温泉地に出向いて健康効果が得られる理由の一つです。

温泉を医療に活用 温泉療法

温泉が様々な理由により健康に対していい影響を及ぼすたえ、日本を含めて世界では温泉を治療に活用しようとする温泉療法を呼ばれるものがあります。温泉がもたらす様々な効果を利用して疾病の治療を目的に、温泉入浴を進めるというものです。その対象となる疾患は様々で、脳卒中後遺症の拘縮リハビリや、変形性膝関節症や関節リウマチなどの整形外科的疾患による痛み、自律神経不安定性やストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、胃腸機能の低下による症状(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)などがあります。西洋医学の薬剤のみで症状がとりされない場合などに有効とされています。本邦では日本温泉気候物理医学会が認定する温泉療法医が各地で活躍しています。詳細が気になる方はぜひ調べてみてください。

まとめ

温泉の健康に対する効果を説明させていただきました。古来より湯治などと温泉の健康に対する効果が信じられていましたが、現代科学でその詳細が解明されつつあります。

これ以外にも、温泉は水圧によりむくみを現象させたり、浮力により筋疲労を改善させたりなど効果があります。一つ一つに高い効果があるわけではありませんが、温泉の持つ総合力が時に病を治すほどの強い効果を発揮します。

健康に対する興味があるけど何をしたらいいのかわからいないという方は、ぜひ気の置けない仲間と温泉旅行に出かけてみてはいかがでしょうか?手軽な健康維持にぴったりです。

  • この記事を書いた人

Masa

現役臨床医のMasaです。消化器外科・総合診療医として地域中核の総合病院に勤務中。 【保有資格】医師免許・外科専門医・腹部救急認定医 【経歴】 大学卒業後、外科医として臨床経験を積み、現在は消化器外科・総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療をしています。また、往診や訪問診療もしており、若年者から高齢者・老年医療まで広く対応しています。

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